突然ですが、みなさんは「死」ということについて
向き合ったことはありますか?

愛する家族の死、友人の死、ペットの死。
病気であったり、不運の事故や、天災など。
誰かと永遠に別れるというのはとっても辛く
悲しいことです。

私もこれまで何人かの大切な人を亡くし、
悲しみ、悔やんだこともあります。

でも、人はいつかは、みな老いて、いずれは死に向かっていく。
それは避けられない事実。

「死」ということに直面したり、想像するだけで、
なんともいえない不安や喪失感、虚無感に襲われるかもしれません。

重たいテーマのように聞こえて
「死」ということについて語るのはタブーでもあるかのようだけど、
それでもやってくる「死」。
そして、いつそれがやってくるかは誰にもわからない。

できれば、健康に長生きして、安らかに死にたい、とは誰もが思うはず。
でも、ある日突然、事故に遭うかもしれない。
地震や大雨などの天災に巻き込まれるかもしれない。
あるいは、病気が発覚、発症するかもしれない。

もちろん、事前に十分に防げる対策や日々の行い、
暮らしの仕方などによって回避できることはたくさんある。

でも、明日があるとは限らない。
私がはじめて、「死」が突然やってくること、
「いま」という限られた時間を大切に生きることを
深く考えさせられたのは、人生の師匠、ゆかりさんの突然の「死」
によってだった。

ゆかりさんと出会ったのは、2006年4月。
新卒でキャリアウーマンを夢見て入社した
外資系の金融会社を退職して、新しい人生のきっかけをつかみに
訪れたオーストラリアで出会った、素敵な人。

私の人生を変えてくれた人だった。
いま、私がこうしてオーストラリアに移住したのも
ゆかりさんとの出会いがあったから。

そして、次に「明日はないかもしれない」ということを
強く意識したのは、東日本大震災だった。
命ある限り、その命を大切に、後悔しないで生きていきたい。

だから、オーストラリア移住を決めた。
でも移住すると決めてからも、移住してからも、
その道のりは平坦でなく、
夢に描いたような暮らしには遠く、現実はそんなに甘くもなく、
辛い日々もたくさんあった。

そんな時こそ、ゆかりさんの言葉を思い出し
原点、初心に帰り、「いま」ここに自分がいる意味や目的を問いただし、
明日を恐れるのではく、「いま」を大切にしていきたい。

今回こんなテーマを突然書こうと思ったのは、
仲良しのフィルムメーカーでアーティストのステファンが、
まさにそのタブーとされている「死」あるいは、
それにまつわる「不安」「恐怖」「悲しみ」などの
感情について人がどう向き合っているのか、あるいは向き合えずにいるのか
を紐解き、シェアしていくイベント
WE ARE ALL GOING TO DIE
を行ったので、その様子を私もシェアしたいと
思ったことがきっかけです。

日本とオーストラリアのみならず、その他の国や宗教、習慣によって
「死」に対する考え方、捉え方は十人十色だけども、それでも、
やっぱりいつかはみな「死」を迎える。

ここオーストラリアでも、現代人はさまざまなストレスを抱え、
統合失調症、うつ病や双極性障害といった気分障害や、パニック障害
といった不安障害、性機能障害、また薬物依存症など、
メンタル面で苦しんでいる人がたくさんいます。

程度の差はあれ、誰もが不安になったり、
落ち込んだりするのは人間として自然の感情。
その暗い底から抜け出せるかは、自分のメンタル、フィジカルの
強さによるところも多々あるけど、周囲のサポートや理解、
そういった苦しんでいる人を支える社会の仕組みや基盤も
大事な要素です。

「いつも明るく元気なあの人が実は悩んでいただなんて」
「そんな不安な様子や素振りは1ミリも見せなかったのに」
なんて話はよくあることです。

そんな弱い、かっこ悪い自分は誰にも見せられない、
誰にも知られたくない、誰にも話せない、
私もかつてはうつ病に悩み、不眠症になり、
治療に通ったこともあります。

でも、意外と自分と同じように苦しみ、悩んでいる人は
たくさんいるのです。

WE ARE ALL GOING TO DIE
と題して行われたイベントのはじまりは、ステファン自身が精神的プレッシャーから
とてつもない不安障害に襲われ、その気持ちを整理するために書き始めたポエムが発端でした。

その時の様子は、こちらの動画を御覧ください。
英語なので詳細を理解するのは難しいかもしれませんが、
動画からも彼の陽気な人柄は見て取れると思います。
私もとてもお茶目でいつも陽気なステファンしか知らなかったから
当時の彼が苦しんでいる様子など想像もできませんでした。

その時に書き留めたポエムが出版社の目にとまり、
ステファンのイラストとあわせて一冊の素敵な本となり、
そのメッセージに共感したクリエイターたちが
クラウドファウンディングキャンペーンを立ち上げ、
マルチメディアアートイベントが誕生したわけです。

キックスターターのクラウドファウンディングキャンペーン用の動画

フェスティバルの様子

バイロンベイで行われた3日間のイベントに私も参加し、
WE ARE ALL GOING TO DIE. LIVE MORE, FEAR LESS.
だって、どうせ、いつかはみな死ぬんだから、
という、後ろ向き、否定的、ネガティブメッセージではなく
いつか死はやってくるんだから、やらないことやできないことを
後悔するより、失敗や不安、未来を恐れずに、精一杯いまを生きよう
という、前向き、肯定的なポジティブなメッセージを受け取ることが
できました。

まず、オープニングの初日は、日本のGREENROOM FESTIVAL でも
演奏した THE BABE RAINBOW によるポエタリーリーディング。
ステファンの本を朗読。

日中の余興としては、パブや電車(バイロン唯一のソーラー電車!)
の中で、一枚のコミュニケーションカードを使って
知らない人と(勇気をもって)会話すること。
カードに書かれているテーマは、
あなたがもっとも不安に思っていること。

知らない人同士だからこそ、もしかしたら
ジャッジされる恐れがないから、
素直に、赤裸々に語れることってあるかもしれません。

2日目は、フィルムナイト。
不安、悲しみ、恐怖、拒絶、喪失、などの
重く暗いテーマをベースに12本のショートクリップを
上映。どれもメッセージ性の強いフィルム作品でした。

そして、クロージングには、上記の言葉をキーワードに
撮影されたフォトグラファーたちの写真展と
ダンスパーティー。ステファンの彼女、ヴァネッサは
プロのヒップホップダンサーで彼女をリーダーに、
フロアは大盛り上がり。

踊りが下手とか他人の目が気になるとか気にせずに
ただ気持ち良く、音楽にのって、
まるで自分のベッドルームで豪快に踊っているかのように
踊る、というのがテーマ。だから、ダンサーはみな
パジャマという格好(笑)

ちなみにヴァネッサは、大好きなダンスで人の心を明るく
軽やかに、自信をもってもらえるように、
ダンスを使ったソーシャルワーク、グルーヴセラピー
立ち上げ、この日も傍観していた人々をグルーヴさせ、
輪の中に取り込み、その興奮、開放感、爽快感を
伝播させていくことの達人です。

この企画に賛同、参加したアーティストのほとんどが
バイロンベイあるいはシドニーのクリエイターたちで
このテーマに対する興味関心の多さが、
クリエイティブコミュニティの意識の高さを感じさせます。

こうして、さまざまなアートやクリエイティビティを駆使して
深く重く考えてしまいがちなテーマを、
明るくポジティブにとらえるだけで、
メッセージの伝わり方はぐっと和らぎます。

人の悩みや悲しみ、不安の質、深さ、長さはそれぞれだし、
誰もが痛みをわかりあえる、解消できるとは思いません。
ずっと、一生、付き合っていかなければならないことも
あるでしょう。

ただ、見方や考え方を変えて、
勇気を振り絞って会話してみることで
少しでも緩和できる方法はたくさんあるんじゃないかなと
思います。

このイベントのアプローチが正しいとか、
ポジティブな発想転換が全ての重く暗い問題をすり替えてくれる
とも思わないし、もしかしたら不謹慎な取り組みだと
思う方もいるかもしれません。

でも、少なくとも、私にとって、
このイベントに参加した多くの人にとって、
WE ARE ALL GOING TO DIEという力強いメッセージは
紛れもなくいつかはやってくる「死」にむかって、
自分はどう生きていきたいんだ、
自分は何がしたいんだ、
自分はどうありたいんだ、
ということを改めて考えさせてくれる
気づきを与えてくれたように思います。

日本でもたくさんの人が同じように悩み、苦しみ、
抜け出せないでいると思います。

日本人や日本でこのメッセージやコンセプトがどう受け止められるか
わからないし、英語でのニュアンスは日本語では伝えにくいと思うけど、
少しでも誰かの希望になれたら。

PHOTO Andrew Hardy